伝統工芸やスポーツ、料理人の世界において
必要な技術や情報を明確に説明せず
先輩や師匠の様子を見て覚えろという方針があるが、
言うまでもなくこのスタイルは相当に効率が悪い。
たとえば野球の「ストライクゾーン」。
何も説明しないままだと試合を何時間眺めさせても
ストライクとボールという結果を踏まえて
何をもってそれが決まっているかを推測するのは非常に難しい。
地上35センチ以上ならストライクなのかと思いきや
地上40センチでもボール判定になる選手がいるし、
大きく外れたコースでもバットを振ればストライクになる。
たとえば俳句のルール。
5・7・5の文字数になっていると見抜いたあたりで
字余りという例外が観察者を混乱させるし、
勘だけで「季語」に気づくことなんてできるだろうか。
そして間違っていたときにドヤされるだけだと
習い手はそれが不正解であることしかわからず、
無限の可能性の中から正解を探していくしかない。
そうなると指導者側も正誤を確認する回数が増えるし、
習い手が役に立たない期間が延びて手間がかかるだけだ。
誰にとってもメリットがないことは明白であり、
こんなやり方は優位性を誇示したい指導者の意地悪でしかない。
習い手の観察能力に頼る指導方法ではなく、
必要な情報と手法を速やかに解説し、
理解と反復練習に時間を割いた方が遥かに効率がいい。
「見て覚えさせる」のは先駆者の姿勢や意欲であるべきだ。
指導者に対して対立・不満・嫌悪を感じさせるのではなく、
信頼・納得・尊敬の気持ちを抱かせることが指導効果を上げる。