ケンカっ早くてガサツな父親(テツ)に悩まされながら
たくましく生きる少女を描いたマンガ「じゃりン子チエ」。
その第7巻で登場した父兄運動会のエピソードが非常によかった。
いつも嫌味をふっかけてくるクラスメイトから
テツとの共通点をたくさん挙げられ、
自分が父親似であることを意識し始めるチエ。
考えれば考えるほど
おとなしくて優しくて美人な母(ヨシ江)よりも
ガサツで乱暴者のテツに似ていることに思い悩む。
そんな中、チエの小学校で行われる父兄運動会のリレー競技に
同級生の母親4人で出場しないかという話が舞い込む。
足の速さに定評のあるチエとしては
運動が大得意なテツが出場して
自分との共通点を再認識させられることも、
おっとりした母親がビリになって
自分と似ていないことを痛感させられることも避けたいのだ。
しかし2人の仲人を務めた花井先生の勧めもあって
ヨシ江はリレーの出場を決心してしまう。
運動会の当日、ヨシ江の出場を最後まで嫌がるテツを含め、
みんなで学校へと向かう。
母親チームの順位が落ちていく中、
なんとヨシ江がテツよりも足が速かった過去が明かされる。
とんでもない速さを見せてトップへ躍り出ようとするヨシ江と、
母親の走力を見て自分との血の繋がりを実感するチエ。
最後のコマのヨシ江の姿勢がめちゃくちゃにカッコいい。
テツを超える常人離れしたヨシ江の実力に大興奮する仲間たち。
普通のマンガなら間違いなく、この後の
1位になってゴールテープを切るヨシ江を描くはずだが、
なんと本作ではゴールシーンは一切描写されず、
運動場の隅でスネているテツに焦点が当てられるのだ。
2人ともヨシ江の実力を知っていた数少ない存在であり、
彼らの様子からいかに現場が盛り上がっているのかが伝わってくる。
読んでいる側としてもチエの喜びようを想像してしまい、
花井先生の優しさにグッと来てしまう瞬間だ。
いつもは日常のドタバタを描いたエピソードばかりなのだが、
たまにこういう絶妙な人間ドラマが飛び込んでくるのがたまらない。