小学校のあるクラスで
アキラがユキの鉛筆を使っていた。
アキラは今日のテストで
絶対に高得点を取る必要があった。
しかし不運なことにアキラの缶ペンに入った鉛筆は
すべて芯が折れてしまっていたのだ。
隣の席に座るユキの筆箱を見ると
鉛筆が何本も入っている。そのうち1本を借りた。
ユキが筆箱を開けると
入っているはずの鉛筆がなかった。
サッと冷や汗をかくのを感じながら机の中や教室の床を探す。
ふと隣の席を見ると
アキラが自分の鉛筆を使っているのが見えた。
自分に何の断りもなく。
アキラはユキの鉛筆を使う権利があると思っていた。
さっきの休み時間にユキがアキラの机にぶつかって
金属製のペンケースを床に落としたからだ。
ユキはペンケースを机の上に戻したものの、
そのとき落ちた衝撃で鉛筆の芯が全部折れていたのだ。
ユキが原因なのだから鉛筆を貸すのは当然だろう。
ユキはその鉛筆だけは絶対に使わなかった。
先月亡くなった祖母の形見だからだ。
いっぱい勉強できるようにと
去年祖母から1ダース入りの鉛筆をもらったが、
最後の1本を使おうとしたところで祖母の訃報を聞いた。
図らずもそれが祖母の形見となったわけである。
アキラはこの日のために毎日勉強をしてきた。
母子家庭のために塾に通う金銭的な余裕がなく、
それを隣の席のユキにからかわれたのだ。
自分と弟を養うために必死で働く母の姿を見ており、
塾がなくてもいい成績が取れることを必ず証明する必要がある。
母や弟に肩身の狭い思いをさせるわけにはいかない。
ユキの心臓はまだドキドキしていた。
教室で飼っていたモルモットがケージから逃げ出し、
自分の方に向かってきたからだ。
ぬいぐるみはたくさん持っているが、
生き物は何をしてくるかわからないので苦手だった。
勢いよく迫ってくるモルモットに
思わず後ずさりして机にぶつかってしまったほどだ。
アキラは深呼吸した。
毎日の勉強は欠かさなかったから
あとは落ち着いてテストに挑むだけだ。
リラックスしたいときは大好きなモルモットをなでる。
家でペットを飼う余裕のないアキラにとって
教室で世話しているモルモットは唯一の癒しだった。
さっきはケージから出すときに逃がしてしまって大騒ぎになったが、
なんとかつかまえることができて安心した。
というような、どちらが悪いのかわからなくなるような話を
道徳の授業でするのはどうだろう、と思って書いてみた。
視点を変えることで印象を操作するのがなかなか難しい。