その24
とりあえず東京には無事に着いた。
新幹線に乗れた時点で東京に着けるのは間違いなかったのだが。
ホームを降りて駅構内に進む。かなり広い。
新幹線の中のトイレ表示の真相がわからないままだったので、
東京駅のトイレで用を足す。
東京で初めてのトイレだ。東京トイレ。「少年ナイフ」みたいな響き。
次に行くのは山手線だ。
山手線ゲームで有名な山手線だが、実際に乗るのは初めてだ。
環状線である山手線の外回りに乗って「新橋」を目指す。
駅の中をウロウロしながら無数にある案内表示の中で
山手線らしきものをたどって行く。
驚くのはまだ改札から出てないことだ。
まだ改札の中にいるのにこの広さ。さすが東京。
下手に乗り継ぐと手続きがややこしくなるから
一旦、改札から出てもよかったが、
ちょうど山手線への案内らしきものを見つけたので
それに従い、改札機に2枚重ねた切符を入れる。
2枚ある切符をどう処理しようと思ったが、
張り紙にちゃんと「2枚重ねて入れてください」と書いてあった。
すると、そのうち1枚にスタンプが押され、また出てくる。
進路はそのまま山手線へ。
なるほど。新幹線を降りたらダイレクトに山手線に行けるのか。
話によく聞く東京駅の姿を表から見てもよかったが
今の私にその余裕はない。
とりあえず無事に山手線にたどり着きたいのだ。
その25
山手線乗り場までは来たものの、
外回りに乗りたいのに「外回り」「内回り」の表示が見当たらない。
環状線だから逆向きに乗っても
いずれは着くんだろうけど、タイムロスが大きすぎる。
正しい方向で乗れば目的の駅まで10分もかからないはずなのだ。
あわてて資料を取り出し、確認する。
新橋に行くためには「渋谷方面」だ。
切符を買おうかと思ったが、新幹線からダイレクトに来たので
すでに改札の中だ。切符売り場がない。
降りた先で清算しろということだろうか。
不安だが、新幹線のチケットを持ったまま
山手線のホームに上がる。
すぐに電車が来た。あれが山手線か。
日本で一番有名な路線だと思ったが、見てみると普通だ。
平日昼間だからか、それほど混んでいない。
座ろうと思えば座れるが、落ち着かないので立っていることにする。
どうせ目的地まですぐだ。
などと思っていると、シートがおかしい。
いや、シートそのものは普通だが、間に妙な鉄棒がある。
図解:シートを正面から見た図
アミ棚と床をつなぐ棒が、シートの端だけじゃなく
真ん中からもいきなり床に貫通している。違和感ありまくり。
ここをまたいで座るのかと思ったが、
この棒が人と人の間に入るように座るらしい。
恐ろしや山手線ルール。下手に座らなくてよかった。
その26
アナウンスが新橋駅を告げる。
壁にある案内表示も新橋を表示している。
間違いない。ここだ。
ごく普通の東京人を装って電車を降り、
出口の表示を目指してひたすら進む。
そして改札。そうだ。新幹線チケットしか持ってないんだ。
一応、東京駅から降りたことを表すスタンプは押されているものの
磁気データとして内容に書き加えられているかは怪しい。
このまま自動改札を通ればブザーを鳴らしてしまうのは確実だ。
こういう時は乗り越し清算をするのだ。さすがにそれぐらいはわかる。
辺りを見回し、乗り越し清算機を探す。切符売り場の隣に発見。
これを入れれば差額分が請求され、
改札を出るためだけの切符が出てくるのだ。
そう思って新幹線のチケットを機械に滑り込ませるが、
同じ速度でそのまま出てきた。
マジで?
新幹線からの乗り越しには対応してないのか。新橋め。
他に新幹線用の乗り越し機があるのかと思ったが、
新橋の駅は思ったりも狭く、周囲には何もない。
しょうがない。駅員に直接渡しに行く。
何人かの客を対応している駅員に
話しかけるタイミングをうかがいながら声をかけて事情を話すと、
その場で130円を請求され、なんとか無事改札を出られた。
電車に乗るより降りる方が難しい。これが東京。
後日、読者の方から指摘があり、
新幹線の切符だけで、東京都23区内であれば
そのまま下車できたようです。
純粋に東京駅から新橋まで移動した場合には
もちろん乗車賃として130円かかります。
新幹線を降りた東京駅から移動してるので、
てっきり別に運賃が発生すると思い込んでました。
とすると、この時の駅員に130円を請求されたのは
駅員側の知識不足ということでしょうか。
少額とはいえなんだかなぁ(切符まで見せたのに)。
その27
とりあえず昼食を済ませたい。
午後2時から受付が始まって
そのあと5時半まで式が続くのだ。
このあたりで一度食事をとっておくほうがいい。
新橋という地名は聞いたことがあるので
多少、有名で賑やかな街なのだろう。
食べる場所が多い方が安心だ。
電車を乗り換える前に食事できる場所を探そう。
新橋駅を出ると小さな広場があった。
噴水らしきものが真ん中にあって、
端になぜか機関車が置いてある。
政治家かなんかの男性が
マイクで演説している横を店を探して歩く。
雰囲気は大阪の梅田に似ている。
騒がしくて、なにやらごちゃごちゃしている。
途中でマクドナルドを発見。
マクドなら(ここでは「マック」と言うべきかも)
日本どこでも同じだろう。ここなら安心だ。
しかし中を覗くとカウンターには凄まじい行列。
時刻は12時を回ったところ。
ちょうどお昼時で会社員やOLがあふれているのだ。
マクドを通り過ぎ、いろんな店を通りがかるが、いずれも満員だ。
満員かどうか確認できない構造の店もあったが
なおさら入りにくいのであきらめる。
コンビニで買って食べてもいいが、
慣れない土地であまり駅から離れるのは嫌だ。
1ブロックをぐるりと回る形で駅まで戻ろう。
地元の人らしきOLがお気に入りの店に並んでいる横を
何もわからない私がドキドキしながら歩く。
ふと横を見ると「1皿150円」と書いている回転寿司屋。
ドアも大きく開けられ、中も見える。席も空いている。
この時間に席が空いているのは何か問題があるからかもしれないが
もともと寿司は好きだし、周りの店の混雑状況を見る限り、
贅沢を言ってもしょうがない。
入ろう。
関西にはない特別な回転寿司ルールがあるかもしれないが、
とにかく昼を済ませないといけない。
その28
「いらっしゃいませー」
元気な声に迎えられながら席に座る。
周りを見回すと湯のみを発見。
このあたりは地元の回転寿司と同じだ。
湯飲みをひとつ取る。
が、お茶パックがない。周りを探しても置いている場所がない。
おかしい。お茶は確かセルフサービスのはずだ。
湯のみを自分で取って、お茶パックを自分で入れて
お湯を自分で注げばお茶になるのだ。
どこだ。店員を呼ぶべきか。
焦ったが、よく見ると湯のみにすでにお茶パックが入っている。
おおぅ。灯台下暗し。
メガネを頭に乗っけながら
「メガネ、メガネ」と探しているオヤジになりかけた。
お湯を注ぎ、無事お茶になる。
目の前を流れるマグロをゲット。
東京の地で初めて食べる食べ物。初めての東京寿司。
ズガン!
おわ!後頭部まで貫通する衝撃。撃たれた?
と思ったらワサビだ。
かなりワサビが効いている。
私はワサビ好きなのでむしろありがたいが、
苦手な人だったら致死量だ。
サービスで味噌汁もついてきた。ちょっと涙出そう。東京イイトコ。
隣を見ると新人らしきサラリーマン。あちらも1人。
思わず話しかけそうになったが、そこは我慢。不審者扱いされてしまう。
7皿食べて1050円。とりあえず今日はこのへんで。
いいところを見つけてよかった。
結局、この店が空いている理由はわからなかった。
その29
昼食も済ませたし、そろそろ電車に乗ろう。
目的地は溜池山王駅。東京メトロ銀座線という地下鉄に乗るのだ。
実はさっき昼食のための店を探しているときに
地下鉄の入り口を見つけていた。
早速、そこへ戻り、改札を目指す。
東京に着いて最初に違和感を感じたのはエスカレーターだ。
地元と違って右側を空けている。急ぐ人は右側を進むのだ。
いつもと寄る方向か違うので東京に来た、という感じだ。
さらには周りを歩く人が話す言葉のアクセント。
当たり前だが東京なまりだ。
みんなが「だよねーだよねー」と
言っているような感じがする。新鮮だ。
かといって大阪でみんなが
「でんがなまんがな」と言っているわけではないので
実際には違うのだろう。
切符を買って電車に乗る。
ごく普通の地下鉄だ。
駅に着く直前に「こちらのドアが開きます」と教えてくれるのが親切。
乗っている時の立ち位置の問題もあるので、
できればもうちょっと早めに教えて欲しい。
その30
そして駅に到着。
もう電車に乗ることはない。
結局、ほとんど問題なく現地までたどり着けた。
時刻は午後1時前。まだ受付までだいぶある。
目的地は「東京全日空ホテル」だ。
地下鉄の出口から出ると、周りはビル群。都会っぽい。
綺麗で大きなビルがたくさんある。
すぐ横にドトールまである。
ドトールは東京でも同じっぽいが、
もともと関西でもドトールに不慣れなので違いがわからない。
さらに進むと「ANA HOTEL TOKYO」と書かれたビルがある。これも大きい。
そのビルの手前に周辺地図の掲示された案内がある。
現在地を探す。発見。地下鉄出口のすぐ横だ。
目的地である「東京全日空ホテル」を探す。早くも発見。
ん?
地図上では現在地のすぐ横にホテルがある。
しかし実際に見てもそこにあるのは「ANA HOTEL TOKYO」だ。
む!!
ANA=全日空
↓
ANA HOTEL TOKYO=東京全日空ホテル
なのか!! 謎はすべて解けた!
と、同時にいきなり目的地到着!
なんか大きそう。
見上げるとすごい高い。
頼むから表記は統一して。
その31
時間が全然経っていない。
まだ1時間以上も余裕があるのだ。
仕方がないので周囲を散歩する。
ホテルの場所を見失わないよう注意しながら
ひたすらまっすぐ歩く。
新橋では小さなエリアを回っただけなので
実際に東京の街を歩くのは初めてだ。
スターバックスを発見。さすが東京。
視界に入るビルも窓がミラーみたいに反射していたり
ガラス張りの部分が多かったり、
妙なオブジェが庭に置かれていたりする。
全体的にオシャレっぽい雰囲気を感じる。
もともと時間厳守で行動するタイプなので、
無意味に時間を潰すのは苦手だ。
ゲームセンターかマンガ喫茶があればいいのだが
残念ながらそんな様子はない。
昼の1時過ぎにスーツを着た男が
ウロウロしているだけで不自然な気がするが
気にせずにぐるりとビル群の区画を大きく回る。
裏通りになると閑散としていてちょっと安心だ。
犬の散歩をしている人や、地元っぽい人がおしゃべりしている。
新橋と違って静かでゆっくりな感じが落ち着く。
オシャレな喫茶店もあるが、緊張するので入るのはやめておく。
さらに進むと、小さなスペースにベンチが置かれている場所を見つけた。
ここはいい。誰もいないし、静かだ。
ベンチに座って持ってきた文庫本を開く。
ここで時間を潰してしまってもいい。
その32
あまり集中できないまま、しばらく本を読んでいると
同じように暇そうなサラリーマン風の男性が1人現れ、
ミスタードーナツで買ってきたらしきものを食べ始めた。
気にせず、本を読む。
しばらくすると男性はいなくなり、また1人。
時計を見るが、まだ20分ぐらいしか経っていない。
ちょっと疲れてきた。
実は時間を潰すのに最適なところがあるのはわかっている。
さっき見かけたドトールだ。
しかし苦手なのだ。
もともと喫茶店に入ろうと思うことがなく、
入る意味もわからない。飲み物なら自販機で買う。
特にドトールのような場所は経験が少ないため、
利用するためのルールがわからない。
たしかセルフサービスのはずだが、詳細を知らない。
不慣れなところは避けたい。
そうやって入らずにいたが、時間が余りすぎている。
しょうがない。東京1人旅とともにドトールデビューも済ませよう。
その33
ドトールへ向かう途中、案内の札を見つけた。
「桜坂」と書いてある。
ホントに?
福山雅治の歌で有名な桜坂は、
ホテルの裏のこんな道路のことだったのか?
業務用のワゴンとか停まってるし、普通の坂だ。
どうも違うっぽい。
ドトールへ向かおう。
その34
ドトールへ入る。
他の客がカウンターへ並んで注文している。
ということは注文してから席に着くのだ。
同じように列に並ぶ。
すかさずメニューを見て、カフェモカを選ぶ。
それとホットドックみたいなやつもだ。
食べ物があった方が時間が潰しやすいだろう。
自分の番が来て、店員のお姉さんに注文を伝える。
言われるままにお金を払う。ここまでは間違ってないようだ。
しばらくするとトレイにカフェモカが乗せられ、
「カフェモカのホットをご注文のお客様ー」と男性店員に言われる。
店内にこの条件に当てはまる客がどれぐらいいるのかわからないが、
その中に私も入っているはずなので、とりあえず申し出る。
整理券のような注文の順番を区別するものがないので、
私よりも先に同じ品を注文して
待っている客がいたらトラブルになったりしないのだろうか。
そのままトレイを受け取ろうとしたが、
よく見ると一緒に頼んだホットドックが乗ってない。
「○○も頼んだんですが……」
と店員に伝えると
「出来上がりましたら声をかけますので
それまでお待ちください」
と言われてしまう。
じゃあ、出来上がってから呼んでくれればいいのに
とりあえずコーヒーが出来たら渡してしまうのか。それがドトールか。
ちょっと怒られた気分でヘコむ。
このまま席に着いてしまうべきなのかどうかわからないが
とりあえず、ちょっと横の方で出来上がりを待つ。
カフェモカだけにしておけばよかったかも。
しばらくすると、また呼ばれたのでホットドックを受け取る。
お金を先に払ってるのに、
客を個別に識別できない方法はちょっと不安だ。
注文の前後や品物の不足などのトラブルは起きないのか。
トレイを持って空いている席に着く。
あと40分。もうここで時間を潰すだけだ。
それにしても店内は客が多い。
平日の昼間なのに、ほとんど満員だ。
みんな無職なのか?よくわからない。
再び文庫本を開いて読み進める。
割といい席を取れたので落ち着く。
よく考えたらさっき回転寿司を食べたばかりなのに
またホットドックを食べている。満腹だ。
カフェモカに砂糖を入れるべきなのかどうか知らないが
甘党の私にはちょっと苦い。
砂糖はどうやらレジ横の入れ物から取ってくるべきだったようだ。
そこまで気が回らなかった。
今日はブラックでいこう。
その35
時刻は午後2時。いよいよ受付が始まる。
他の客を観察する。
なるほど。食べ終わったトレイは返却口まで持っていくのか。
本を片付け、空になった皿とマグカップを乗せたトレイを持つ。
さっきの客と同じように返却口に返し、店を出る。
すぐ横を向くと東京全日空ホテルだ。
遅刻することもなく無事に着くことが出来た。
さっきは横を通り過ぎただけのエスカレーターを上がり、
ホテルの入り口へ向かった。
その36
ホテルで授賞式が行われるといっても、
ホテルを丸ごと借り切っているわけではないだろう。
どこかの部屋を借りているはずだ。
フロントかどこかに案内が出ていないかな、と思ったが
ホテルに入ってまもなく立て札があった。
「CESA GAME AWARDS」と書かれている。どうやら地下だ。
しばらく進むと、また立て札が立っている。さすがに迷いようもない。
立て札に従って進み、地下へと下りる。
ホテルの中はあまりにも綺麗で豪華だ。
もしかしてすごく大きな式なんじゃないのか。
思わず写真を撮るが、あまりの豪華さに動揺した。
撮り直すもやはり動揺。
ホントにこの先なのか。私は参加者でいいのか。場違いではないのか。
エスカレーターに乗ってさらに下りる。
天井も綺麗。しかし天井が撮りたかったわけではない。
下っていくエスカレーターの先を見ると
スーツを着た人たちが大勢いる。
それをカメラマンたちが囲み、何度もフラッシュが光っている。
姉さん、事件です。(高嶋政伸風に)
その37
下りのエスカレーターを
ダッシュで登ろうかと思うぐらい重々しい場だ。
スーツの集団の向こうには
「CESA GAME AWARDS」と書かれた看板がある。
やはりここだ。間違いない。
ただし、これはINDIES部門だけの授賞式ではないようだ。
CESA GAME AWARDSには、他にもゲームメーカー向けに
発売されたゲームや開発中のゲームを対象とした部門も用意されている。
今日はそれらの賞の総合的な授賞式だったのだ。
ドキドキしながら受付へ向かう。
「あのー、INDIES部門受賞者の生島と申しますが…」
他にINDIES部門がどれぐらいいるのかわからないし、
果たしてこれで伝わるのか心配だったが、
これ以外に私のことを説明する情報がないのでしかたがない。
すると、受付の女性に丁寧に挨拶され、
まず本人確認のための身分証を求められる。
ないとは思うが、私以外の人が代わりに紛れ込まないように
身分証で確認するということで、事前に電話で連絡を受けていた。
そうでなくても携帯しているが、財布に入れておいた免許証を差し出す。
本人確認を受けたあと、
首からかけるネームタグと胸に着ける小さな黄色い花、
そしてプロフィールなどを書き込む用紙を受け取る。
しまった。
今、気づいたが筆記用具を持ってこなかった。
普段は職場でしか使わないため、一式を職場に置きっぱなしにしてきた。
あいにく胸ポケットにもささっていない。
「すみませんが、ボールペンかなにか
お貸しいただけますか?」
ただでさえ緊張しているのに、
さらに緊張するようなミスを自分で起こしてしまった。
受付の女性はそこにあったボールペンを快く貸してくれ、
そして脇にいた男性に少し声をかけた。
するとその男性が近づいてきた。
「お世話になっております。
GAME AWARDS担当の○○です」
挨拶をした男性は、電話などで何度か連絡してくれた方だ。
こうやってINDIES部門受賞者に
毎回挨拶しているのだろうか。非常に丁寧だ。
ネームタグや用紙や花をグチャグチャと持った情けない格好のまま
こちらも挨拶する。
「ではちょっと式に関して説明させていただきます。
まず会場はこの中になります」
受付の横にある大きな入り口をくぐっていく。
あわただしくネームタグを頭からかけてついていく。
入り口の脇に立っているボーイが
前を通るだけで頭を下げてくる。
入り口をくぐると一気に視界が開けた。
我が家が一戸まるごと入りそうなホール。
そこに数百人分のイスがぎっしり並べられている。
なんだここは。そしてこの広さは。
「こちらがINDIES部門の方のお席になります。
生島様と、あと、こちらに3人のチームの方が来られます」
示されたイスは4つ。いずれも背もたれの後ろに
「INDIES部門受賞者席」と紙が貼られている。
4つ?
ということは私ともう1チームとで、参加者は2組ということか。
大賞か優秀賞のどちらかがもらえるということだから、
この2組のどちらかが大賞で、もう片方が優秀賞じゃないか。
優秀賞は「該当数」ということだったが、今回は1つだけのようだ。
単純明快ではあるが、これは優秀賞でも結構な倍率じゃないのか。
優秀賞が何十個もあったらどうしようと思ったが、これならかなり嬉しい。
いや、それよりもこの4つ以外の席は
すべてゲームメーカー関係者用ということなのだろうか。あまりにも量が多い。
深く息を吐きながら、4つのうち一番右のイスに腰掛けた。
その38
受付でもらった用紙を記入する。
実は副賞の賞金に関しては銀行振り込みなのだ。
手間や安全面から考えると確かに合理的だが
賞金というからには直接手渡しで受け取った方が感激しそうだ。
実際にいくら振り込まれることになるかはまだわからないが、
借りてきたボールペンで口座番号を書き込む。
賞金は2日後に振り込まれるらしい。早い。
無事に書き終わると、ペンを持って受付まで提出しにいく。
書き間違えてはいないと思うが、提出したあとは少し不安だ。
先ほどの席へ戻る。隣のチームはまだ来ていない。
前を見る。
ライトの色とか、看板とか、設置しているスクリーンとかが本気すぎ。
アカデミー賞みたいだ。
私は1人チームなので話し相手がいない。
1人でいるのは苦じゃないが、開始まで暇だ。
しかしゲームボーイアドバンスをして
時間を潰すわけにもいかないだろう。
ネームタグ(これがないと会場に入れない)を見ると、
名前以外にゲーム名も書かれている。
しばらくすると、隣にも人が座り始めた。
INDIES部門の席ではなく、反対側の席だ。
数人で来てるグループらしい。
後ろを見ると結構席が埋まってきている。
隣に座っている人もやはりネームタグを首からさげている。
INDIES部門以外の人はどういう人なんだろう。
チラリと名前の部分が見える。
ドラ……ゴ……、ドラゴンクエスト!
いきなりだ。いきなり隣にドラクエ関係者。
やはりそういう場なのか。見た目通りの規模の式じゃないか。
携帯を取り出し、この感動を先輩にメールしよう。
が、圏外。
その39
せっかくの臨場感も誰にも伝えられない。
地下なので電波状態が厳しいのだ。
そういえばCESAから交通費が出るはずだが
その金額や内訳などはいつ知らせればいいのだろう。
受付では特に聞かれなかったし、さっきの用紙にも記入欄はなかった。
賞金が振り込みで交通費が現金渡しというのも妙な感じだし、
一緒に振り込まれるのだろうか。
受付に聞きに行こうかとも思ったが
とてもそんな雰囲気ではない。
少なくとも5万円は賞金がもらえるのだ。十分に元は取れる。
とりあえず今は式に集中しよう。
しばらくすると、隣のINDIES部門席にも人が来た。
3人チームの、もう1組の受賞者だ。
チラリと見ると、思ったより年齢が高そうだ。
というより普通にプロっぽい雰囲気。元プロのクリエイターなのだろうか。
向こうはチームで楽しそうだ。
こういう時は受賞者同士、会話したりするもんなのだろうか。
しかし話しかけづらい。ここは1人で待機だ。
緊張する。
スーツを着てきてよかった。
その40
時間が来た。
会場がぐっと暗くなり、司会の男性、女性が出てくる。
こういった場の司会のプロなのか、しゃべり方がそれっぽい。
上にある大きなスクリーンにも司会の顔が映し出される。
テレビの中継のような感じで、正面からのカメラの映像が出るようだ。
そしてスクリーンが切り替わり、各賞に関する紹介のデモが流れる。
今日、賞が発表されるのは
「GAME AWARDS INDIES」
「GAME AWARDS FUTURE」
「GAME AWARDS 2003-2004」
の3つの部門のようだ。
おそらく下に行くほど、よりレベルが高い賞なのだろう。
賞を発表していく順番もこのままのはずだ。
式としてだんだん規模の大きな賞を発表していく。
私にとってはいきなりだ。
式が始まって間もないのに、もうINDIES部門の発表が始まる。
「それではまず、『GAME AWARDS INDIES』の発表から始めましょう!
『GAME AWARDS INDIES』はプロ、アマチュアを問わず
まだ製品化されていないゲーム作品を対象に送られる賞です。
プロのゲームクリエイターによる第1次審査でノミネート作品を選出、
これらノミネート作品につきましては
さらに東京ゲームショウ会場内においてCESA会員による審査、
選考委員による最終選考を経てこの度の受賞作品が決定されました。
それでは第1次審査を通過したノミネート作品6つをご紹介いたしましょう!」
おおぅ、ノミネートでいきなり6つまで絞られるのか。
全応募作品数が不明だが、第1次審査で6つに絞られるなら
かなり厳しいラインだ。
「ひとつ目は生島 大さんの『フロントライン』です!」
ひでぶっ!(古い)
いきなりフロントラインの名前が出た。
事前に聞いてなかったが、フロントラインもノミネートには入っていたのか。
バーガーメーカーは受賞作だから入っているとしても、
6作品のうち2つが私のものということになってしまう。
実は意外と全体数が少ないのだろうか。
「『フロントライン』は武器を切り替えながら
戦場を進んでいくアクションゲームで……」
司会が説明していく横でスクリーンにゲーム画面が映し出される。
動きにこだわった棒人間キャラだが、
大スクリーンで映し出されると非常にチープに見える。魅力が伝わるのか。
しかもこの画面は私が応募時に提出したVHSテープのものじゃないか。
低い解像度のボヤけた画質がよりチープさを加速させる。
などと思ってるとすぐにプレイ動画が終わる。6秒ぐらいだ。
ゲーム内容を知らない人だったら何がなんだかわからないんじゃないか。
「ふたつ目は生島 大さんの『バーガーメーカー』です!
生島さんは2つの作品がノミネートされています」
あぁ、連続だ。
2作品の紹介とはいえ、10秒も経たないうちに
2度も同じ名前を呼ばれるとちょっと不自然だ。
隣のドラクエ関係者が失笑している。
とはいえ、
大スクリーンに、
確かに私の作ったゲームのタイトルと、
私自身の名前が出ているのは感激だ。
語呂がいいから、という理由で安易に決めたタイトルだが
これでよかったのだろうか。
その41
ほか4作品のゲームも
6秒前後といったスゴい短さで紹介されていく。
隣に座っている、もう1組の受賞者の作品が
残りの4つのうちのどれかなのだろう。
「これら6作品の中から、大賞、そして優秀賞が決まります!
まずは優秀賞の発表です!」
しかし式に出席しているチームが2組である以上、
受賞作は2つなのだ。
賞の発表としては下のランクから発表するわけだが、
受賞作品の数と、その片方の作品を知っている私にとっては、
「優秀賞の発表=大賞の発表」なのである。
早い話、次の優秀賞で名前を呼ばれた作品が優秀賞、
呼ばれなかった作品が大賞なわけだ。
「第8回 CESA GAME AWARDS INDIES、
優秀賞は……………」
つまり、ここで呼ばれれば賞金5万円、
呼ばれなければ50万円だ。
つまり、司会者が「バーガーメーカー」と言うかどうかだ。
「バ」と言うのか?次の言葉は「バ」なのか?
「マヌカンピス(MANNEKENPIS)!」
うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!
来たぁぁぁぁ!!!
50万円来たーーーーーー!!
大賞ゲットォォォォォ!!!
ふおおおおぉぉぉぉ!(のだめ風に)
震える。腕が震えるぜ!来たー!やったよ先輩、大賞取ったーーー!
1位来たーーーーッ!!優勝来たーーー!!
すぐさまメールだ。このニュースを知らせるのだ!
が、圏外。