プチメタ3.0

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ネクタイが落ちていた理由(わけ)

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通勤途中のコンビニの前にネクタイが落ちていました。
まさに今まで着けていた、という脱ぎたて具合。


なぜこんな歩道の真ん中にネクタイが落ちているのか、
ホームズのごとく推理してみました。

推理1.

アパレル関係の店で
バイトをしている大和くん(22歳)。


今日も1日アルバイトです。
今は一番下っ端だけど、
いつか自分の店を出せるようにがんばっています。


アパレル関係はファッションに詳しくないといけません。
お店に来たお客さんの服選びの相談にも乗れないといけません。
大和くんは毎月数冊のファッション誌を買って研究しています。
常に流行に敏感である必要があるからです。


いろいろな専門用語も覚えました。
ファッション関係の言葉はたくさんあるので大変でした。


接客の仕方も学びました。
アパレル関係は基本的に客商売。
誰とでも気軽に、しかも丁寧に接することが大切です。


お金の管理もやりました。
売れた服と仕入れの服、返品された物など
さまざまな要素で上下するお店のお金を
間違うことなく管理できてこそ1人前です。


力仕事もがんばりました。
服というのは意外と重いのです。
毎日、マネキンに服を着せたり、棚に服を運んだりと、
想像以上に大変です。


小さいもの、たとえばネクタイなども
量が多くなるとかなりの重さです。


仕入れのトラックから店内へネクタイを運ぶ際に
なるべく少ない往復で運べるよう、
大和くんは大量のネクタイを
両腕で抱え込んで運ぶことにしました。
こうすればずいぶん持つことができます。


でも大和くんの手からするりと落ちたネクタイが
トラックの車体の下へと滑り込みました。
大和くんは気づいていません。


すべてのネクタイを店内に入れると
トラックの運転手にお礼を言って
大和くんは店内に入っていきました。


トラックが発車したあとに、ひとつのネクタイが残りました。
でも誰も気づいていません。


次の朝、私がコンビニの前を通りがかると
ネクタイが落ちていました。
大和くんが店内に運び損ねたネクタイ。

推理2.

窓際族の竹下さん(48歳)は万年係長。


今日、ついに部長からリストラ宣告をされました。


この支社に転勤になったとき、
じきリストラされることはわかっていました。
バリバリと仕事をしてきた本社から
ずっと赤字続きのこの支社に移されたときに。


「島流し」とも言われるこの支社へ転勤になると
すぐに退職する人もいます。
でも竹下さんはひたすらがんばりました。
22歳で就職して、ずっと働いてきた会社で
これからもずっと働きたかったのです。


でもリストラされました。
今日、昼休みが終わったときに部長に呼ばれて
静かに宣告されました。
部長が買ってくれた紙コップのコーヒーを握り締めて
竹下さんはずっとうつむいていました。


退社時間が来るまで残務処理をしました。
次に来る人のために机も整理しなければいけません。
次にリストラされに来る人のために。


竹下さんは今まで接待でしか行ったことのないキャバクラに
今日、初めてプライベートで行ってみました。
最後の夜に部下たちを誘って。
いや、部下だった人たちを誘って。


真面目で通ってきた竹下さんも、今夜はハメをはずしました。
泣きたくなる分、笑ってみました。
大声で歌ってみました。騒いでみました。
今まで冷ややかに見ていた
ネクタイハチマキも初めてやってみました。


なんだか気持ちよかったです。
明日からどうなるかわかりませんが、
今夜はとにかく気持ちよかったんです。


店を出て、竹下さんはネクタイハチマキを取りました。
もうこのネクタイを使うこともありません。


今までずっと一緒だったネクタイをグッと握り締め、
竹下さんは思い切り空に放り投げました。
ネクタイは奇妙な動きをしながら、パサリと歩道に落ちました。


そのまま竹下さんは駅の方へ向きを変え、
財布から定期券を取り出し、丸めて捨てました。
今夜は久しぶりに切符で帰ろうと思いました。


次の朝、私がコンビニの前を通りがかると
ネクタイが落ちていました。
リストラされた竹下さんのネクタイ。

推理3.

家族に恵まれた中嶋さん(40歳)。



決して美人ではないが、優しくて家庭的な奥さん。
特別グレることなく、元気に育った息子。
いい高校へと進学を決めた優秀な娘。


知り合いからもよく褒められるいい家庭です。
絵に描いたような幸せな家庭。


実際、中嶋さんは幸せでした。
いえ、中嶋さんだけでなく、家族みんなが幸せでした。


でも、中嶋さんには嫌なクセがありました。
会社から帰ってすぐにお風呂に入るのですが、
脱いだものを散らかすのです。


「もう~! 脱いだら脱ぎっぱなし!
 洗濯物は洗濯機に入れてって、いつも言ってるでしょ!」
いつもこんな風に奥さんに怒られるのに
一向に直りません。


お風呂の前の廊下には中嶋さんが脱いだものが転々と落ちています。
お風呂に向かいながら服を脱ぎ捨てて、
お風呂の直前で全裸になって、
そのままお風呂に入るわけです。


中嶋さんとしては子供の頃からこうやってきたし、
この方がお風呂に入る気持ちが高まるので好きでした。


でも、奥さんは嫌な予感がしました。
毎日、少しずつではありますが
助走が長くなってきてるのです。


最初はすべての服が廊下だけに脱ぎ捨てられていたのに、
そのうち玄関の辺りに上着が落ちているようになり、
ついには玄関のカギを開ける前に上着を脱ぐ始末。
徐々に脱ぎ捨てていく距離が確実に伸びています。


でも、さんざん注意しても直る気配はありません。
それどころか、毎日順調に助走距離を伸ばしています。
1週間前には、ついに電車の中で
背広の上着とズボンを脱ぎきってしまうというありさま。
完全にフライングです。


そして今夜はさらに助走を伸ばし、
帰るための駅に行くまでに上着を脱ぎ、
ネクタイを外して脱ぎ捨てたのです。
電車に乗った時にはすでに半裸でした。


次の朝、私がコンビニの前を通りがかると
ネクタイが落ちていました。
お風呂に入るために中嶋さんが脱ぎ捨てたネクタイ。

どれが真実だとしても、とっても自然ですね。

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